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『BEASTARS』-テーマとストーリーの関係性とは。

BEASTARS 12巻読みました。
アニメ化するらしいですね。

BEASTARS(12) (少年チャンピオン・コミックス)

BEASTARS(12) (少年チャンピオン・コミックス)

 

 

11巻では物語に一区切りがついて、これからどうなるのかなー、と思ってたところ。食殺事件編の佳境に入り、ストーリーのその勢いに圧倒され感無量という感じだった。レゴシ・ルイの禁忌を犯す友情のシーンはドキドキしながらかつウルウルしながら読んでいたのだけど、それはただの一過性の盛り上がりではなく、本作の核となるテーマだった。

 

12巻ではそのテーマがずっと貫かれていくんだ、ということが新たな世界の幕開けと並行して描かれていた。そしてその点があまりにも秀逸に表現されていて、ひとつの物語として敬意を払いたくなるほど丁寧。こんなに緻密に練られた世界観を表現する漫画に出会えるなんて幸せです。

 

今回はその「テーマ」と、深大な物語そのものについて。

"異種間"であること?

がテーマなのだろうか。

まあ明らかにそうだと思うのだけど、こんなにもテーマをド派手に表出させる漫画って結構珍しいんじゃないかなあって思う。

「見た目や価値観の異なる種との共存」という概念が幾度となく本作に登場する。後述するけど、これはメッセージとかいう問題ではなく、作中の世界では常識・社会通念である。だから、テーマという形それ以前のものとして、作中の動物達がしきりに口に出すんだろうな。っていうのがこの作品のテーマが非常にわかりやすく読者に見えている理由。

・・・

うーん言語化が難しい。何回もBEASTARSのことを書こうと思ったけど、このテーマの扱いを言葉にするのが難しくて。

・・・

つまり、異種間共存というテーマは現実世界にも共通する考え方として読者に刺さる。それと同時に動物世界での物語には欠かせない社会通念として、空想にリアリティを持たせる重要な核である。

 

どうしてそれを力説したか。

それは「異種間共存」というテーマが、

1. 読者に見えるように何度も提示されていて、頭に刷り込まれている。

2.それによって、「異種間共存」というテーマがストーリーそのものの奥深さを演出させている。  

からです。1はもう説明しました。僕が12巻で感動したのは、"テーマとストーリー"のバランスが上手すぎたからです。

テーマが支えるストーリー

普通逆です。

とある物語がありました。

この物語を通して、みなさんには○○ということを伝えたいのです。

っていう流れでメッセージが伝わる。ストーリーが、本質であるテーマを支える。

 

一方本作では、テーマ無しにはこの物語自体が成立しない。何故ならテーマそのものが世界の軸だから。4,5回くらい言ってる気がする…

 

これでもかと「異種間共存」を伝えまくった12巻でしたが、何より1番感銘を受けたのは「ビースター」というタイトル回収ではないかしら。二世代前の、とある2人組の話。「異種間共存」を目指し直走る2人のうち、1人が「異種間共存」 のため志を諦める。

そうして産まれた雑種の肉食獣レゴシ。彼はウサギに恋をし、アカシカの脚を喰らい、ヒツジの隣人となる。いまの彼を突き動かす原動力は「異種のウサギに恋をした」ということなんだろうけど、それをただの叶わぬ恋とはしない。

この物語の社会では、草食獣の配慮で満ちていて、肉食獣が自制を余儀なくされた上で一見共存を実現できているように見えている。 しかし水面下ではやはり草食・肉食 / 男性・女性の境は明らかで、それぞれの本能には抗えず弱肉強食が蔓延している。 

 

そこで真の「異種間共存」を投げかけるのがレゴシ。一度禁忌を犯したという苦悩を感じながらも、ほんの少しの過ちから他者を傷つけしまわぬ様に自らを律していく。 

・・・

なんかあらすじみたいになってしまった。

「異種間共存」から生を受けたレゴシが、「異種間共存」の実現に向けて奔走する。そして共存と真逆の食殺を犯した肉食獣の彼と同時に、ルイという草食獣もまた、「異種間共存」の頂点に君臨するビースターへの道を進む。

 

レゴシとルイ以外にもたくさんの動物達が登場する通り、『BEASTARS』は群青劇的な側面が強い。多くの種族・多くの考えをまとめあげるのがこの社会のゴールだとすると、色々な動物たちの中でストーリーが必要になるから。

 

しかしそれをダラダラと描いていくのではなく、しっかりとレゴシとルイ、学園とその外、表社会と裏社会、そして肉食獣と草食獣、といった対比を上手く用いながら描いているのが本作。そして12巻ではレゴシの出生そのものが、物語のテーマと密接に関わっていたことがわかった。

物語の質量が大きい。密度が濃い。温度が高い。『BEASTARS』は本当によく出来た漫画で、なにかの賞に輝いたのも恐らくメッセージが誰にでも伝わる様に設計されているから。そして何より、複雑で広大な世界観の中で読み応えのあるストーリーを保てているのは、テーマが動物世界の根本だから。

こんなにシンプルな構図なのに、類を見ないほど手が込んでいる。時間と愛情がたくさん注がれているんだなあ、って思います。それを過去最高に感じ取れた12巻では、思わず熱量に感化されて涙してしまった。

 

上手に言われ…ぬ! 

言葉にするのが難しかったです。

頭では『BEASTARS』が飛び抜けて面白い理由をちゃんと分析して理解できているんですけど、伝わらなかったらごめんなさい。

 

1クールや2クール程度のアニメ化では、おそらく物語の深さは表現しきれないと思います。一方で動いて話すキャラクター達は見てみたい。アニメはちょっとだけ覗くことにします。

 

最後に余談です。

BEASTARSの世界にヒトはいません。

それどころか、猿、もしくは類人猿(?)に分類される動物も登場しません。たぶん、それに関連するワードも出てきてないかな。

 

何故なんでしょうね。ヒトが登場しないのはわかりますが、モンキーが全くいないのは少し不思議です。何か設定上の理由でもあるのかな。