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ドキュメンタリーとエンタメ「ブラッククランズマン」「ちいさな独裁者」

今回は映画の感想×2 です。

引っ越しをしてからインターネット環境が無くなり、インプットが不足しています。つらい。

 

ということで半ば義務的にインプットを増やそうとし、この前「ブラッククランズマン」「ちいさな独裁者」を続けて見ました。

僕は暗く重い映画が好きで、邦画だと「悪人」や「怒り」、洋画だと「縞模様のパジャマの少年」とかがお気に入り。

 

で、大学時代にアメリカの黒人文化を色濃く勉強したことがあったりでブラッククランズマンは特に見たかった。KKKを題材にした実話ベースのクライムサスペンスで、期待値はかなり高かった。

ちいさな独裁者も、あらすじがすでに魅力的で、こちらも史実を元にした戦争もの。

 

どちらも主張が強く、濃い味の映画だった。文字を書く勘を取り戻す目的もありますが、以下レビュー。

 

注: ネタバレあります!

ブラッククランズマンはエンタメではなかった

ポスターを見てください。

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「痛快・リアルクライムエンターテイメント」とあって、アダムドライバーがメインと来たら見るしかなかった。

 

結論から言うと、めちゃくちゃにスパイクリーが前のめりにメガホン持って「これがアメリカやぞ!!ええんか!!?」と叫んでいるだけの映画だった。

ドゥ・ザ・ライト・シング」と「マルコムX」を見たことがあって、どちらもドキュメンタリー寄り(マルコムXは言わずもがなだが)なのだけど、一応迫力や演技力といった点で見応えはかなりあった。

そんなスパイクリー作品で「クライムエンターテイメント」とあれば、さぞ面白いんだろうと。似たようなテーマの「グリーンブック」とは何が違うんだろうな〜、とワクワクしながら見た。

エンドまでは最高に良かったです。

上げて落とすエンド

せっかく痛快なストーリーと意味深な本編の終わり方のおかげで最高の幕引きの余韻に浸れそうだったのに。最後の数分間はそれまでの「エンタメ性」をすべて台無しにするラストだったと思う。この作品の意図を見せずに公開しているおかげでまんまと騙された。日本では理解されないと思います。

グリーンブックは見てないけど、たぶん日本でこれらの映画を「人種差別」と絡めて楽しめる人は当然いなくて、僕も情けないことにブラッククランズマン本編でもよく分からないシーンや用語が多くあった。多くの人がエンタメを求めている作品のラストに、あそこまで強烈なメッセージを真っ直ぐに見せられたら…。

 

たまたま個人的な経験のおかげで僕にはそのメッセージは吐き気を催すほど伝わってきたけど、そもそもKKKを知らないような人が劇場に足を運んでいる中ブラッククランズマンの真髄が理解されるはずもなく。残念だなー、と思った。むしろあのラストをカットして日本で公開した方が良かったのでは…とも思える。

 

KKK  黒人差別  そしてそれらに関連する時事ニュースに疎い人は見てもあまり意味はないと思います。単純にクライムものとしてもある程度面白いけど。

ちいさな独裁者は最高のエンタメ

 

一方ちいさな独裁者。


『ちいさな独裁者』は、2017年制作のドイツ映画。原題の"Hauptmann"とはドイツ語で「大尉」の意。 第二次世界大戦末期、偶然の成り行きと言葉巧みなウソによって将校の威光を手に入れた脱走兵の若者が怪物的な独裁者に変貌していく様を描く。1945年にヴィリー・ヘロルトが引き起こした実際の事件をベースにしている。by wiki

 

あらすじがもうゾクゾクするくらい面白そう。

日本だとミニシアター系の映画なんだけど、最近は人気がすごくて結構ロングランしてるとか。

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「丈の長い軍服  借り物の権力

というキャッチコピーはこれ以上ないくらいこの映画を表している。すごい。

ヴィリー・ヘロルトという脱走兵が仮初めの権力を手にし、ドイツ軍をかき乱していく過程と、彼の小賢しさ・狡猾さや取り巻くの緊張感が本当に上手く描かれている。当事件のことは全く知らなかったけど、前知識がゼロの状態でもエンタメ作品として100%楽しめた。

 

ぜひ見てみてください。

ちいさな独裁者のエンド

僕が言及したいのはこれです。

奇しくもブラッククランズマンと同様、本編後にちょっとしたメッセージ性のあるエンドが流れる。それはヘロルト率いる偽の小隊が、現代のドイツの街に現れるというもの。道行く人々に悪態をつき不当とも言える取り調べ(持ち物検査みたいな)の真似をする。本当にドッキリなのか、演出なのか分からないけど、そのメッセージとしては「人の上に立つことで露わになる残虐性や悪意は、時代を超えて今も存在する」というもの。

ブラッククランズマンのように実際のニュース映像を流すことでも当然主張としては成立するだろうけど、ちいさな独裁者のエンドはユーモラスで、観た者に与える不快感にもフィクションだというエンタメ性が伴っていた。

 

しかも、本編のラストでは本来死刑になったヘロルトの最期までは描かれないんですよね。第一回の判決では猶予が付されるのだけど、そのタイミングで再度脱走をし、屍を踏み進み森の中へ消える、というヘロルトの人間性を見せつけるかのようなラスト。

その後現代を舞台にしたエンドロールに入るんだけど、まるでそのエンドロールに繋げるために本編のラストを上記のように終わらせたようにも思える。

 

「ブラッククランズマン」と「ちいさな独裁者」どちらも史実がベースで、現代への警鐘が込められているというのも共通している。ただ、前者はあまりにも力が強く観たものを圧倒しすぎてしまう。もっと言うとその「エンタメ」を求める人にはそのテーマは理解されていないかもしれない。後者では最後のメッセージまでフィクションと絡めてあり、主張にも一貫してエンタメ性が感じられた。

 

春らしい映画です〜

どちらもよく出来た映画だったけど、個人的に好きなのは「ちいさな独裁者」かなー。というか今まで観た似たような映画の中でもトップクラスに好きだ。

 

春に相応しくないドス黒い映画だったけど、世間の浮かれた雰囲気と相殺するような、このマイナスの爽快感がたまらない。だから小生、暗い映画が好きなんですよね〜。

 

ぜひ観てみてください。