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『荒ぶる季節の乙女どもよ。』の面白さが最高潮に達した2018年冬

岡田麿里さんがストーリー原案を担当する『荒ぶる季節の乙女どもよ。』、以下荒ぶると言いますが、3,4巻の退屈かつ少しテーマとズレた展開が最新刊でどんでん返しとなりました。

 

2018年度最高傑作のひとつです。

めちゃくちゃに面白い。以下感想やで。

 

 

 

物語の馬力を上げる3つの歯車。見ていきます。

意気地なしだから

いやーよかった。

ミロ先生が頑なにセックスを拒否していた理由があのワンシーンに全て収束していました。

本作のテーマ「性」において、教師という特殊なポジションで関わるミロ先生が、不純な関係でも構わないとする本郷ちゃんにどう接するのかはかなりの注目ポイント。

本郷ちゃんを追い払おうとミロ先生が提案するアイデアは、本郷ちゃんの好奇心・好意の前では歯が立たなかった。だからこそラブホテルで行為の直前の直前、いわばはじめての女性が1番ナーバスな瞬間を狙って本郷ちゃんを巻こうとした。

 

でも本郷ちゃんの想いとその行動力の強さには抗えず、見られてしまった。

 

そのときミロ先生が呟いた「意気地がないだけだから…」というセリフ。これほど本郷ちゃんが求めてくれているのに男として応えられない無念さ、教師として止めるように諭せなかった無力さ、意中の冨多先生との関係も自分の身体的欠点を理由に見て見ぬ振りする臆病さ…ミロ先生の抱えるすべてのネガティブがあのシーンに凝縮していた。

そして愛情と乖離した状態の「体験」すらできなかった本郷ちゃんの無念さ。教師との恋が成就しないとは知っていたけど、せめて せめて  という彼女の焦燥感がたどり着いた先は物理的な壁。想いで弾かれた挙句、身体でも弾かれるなんて、という本郷ちゃんのやるせなさ。

 

ミロ先生が不能っていうのは僕の推測ですけどね。ほぼあたりだと思うけど…

本作は軽快な雰囲気で話が進むけど、性というテーマが重くのしかかる最高のシーンだった思います。

勃ってたくせに

菅原氏、一線を超えたな。

そのうち何かやらかすってみんな思ってたはずだが、まさか言葉より先に行動でその未熟さ・自己肯定感の低さを示してしまった。

菅原氏、見た目の可愛さとは裏腹に、幼少期に受けた歪な愛のせいで少し恋愛観が捻じ曲がってるのよね。しかも、認めて欲しい人に成長した自分の姿を否定されたわけですから。

菅原氏が強硬手段、つまり心を奪えないのなら身体で無理に惹き込んでやろうと思ったのは、そういう背景があるから。そりゃああれだけ綺麗な見た目をしていて、小さい頃からチヤホヤされたら、ね。。

 

しかし自分の身体を泉くんにまで否定され、自我が崩れた菅原氏。真に愛されないことを痛感してしまった彼女の傷をさらに深く抉る告白。その一連の出来事は、堅い友情の間に潜在していた「性」という見えない亀裂を明るみにし、これからの『荒ぶる』の方向を決めるもの。これまで菅原氏のポジションは特殊すぎたが、肉体というストレートすぎるがゆえ遠慮されるポイントを突き、ほのぼのとした日常をぶち壊した。高嶺の花と敬遠される菅原氏と心の救済、それらは本作の裏主人公・裏テーマとしていいんじゃないかな。

 

それにしても泉くん大丈夫かな…。いやうらやましいけどな。モテ男め。

友達とはえすいばつできない

ハッとしますね。

今まで、なんとなーーーーーーく「そういう感じの人」を醸し出していたもーちん。「そういう人なのかな?」といくつかヒントを与えていた物語。

 

その通りでした。もーちん以外の同性の友人はみな異性を好きになる。自分は男に触れられると寒気がする。男とか女とか関係なく、って言ってたけど、もーちんが菅原氏のことを好きなのは、やっぱり菅原氏が女性として魅力的だからじゃないかな。

 

恋愛対象が同性の人は当然いる。そんなことは今の時代全く気に留めないかもしれないけど、当の本人からすると「普通と違う」ことは凄まじく加重がかかる。

6巻の最後、ほわほわのもーちんが「やっちゃったなあ。」という表情を見せたシーン。もう心臓がキュッとすくみ上がりました。

菅原氏が泉くんに拒否された理由、それは単純に倫理的な問題であるからで、男女としては当然凸凹を合わせることは可能なのである。

さらにはミロ先生と本郷ちゃん。凸凹を合わせることはできないかもしれないけど、恋愛という点では「普通の」関係として付き合いができる。

一方、もーちんと菅原氏。身体は合わない、恋愛対象となる性別も違う。友達として維持しないといけない。でも明らかな愛恋の気持ち。もーちんが抱く桁違いの辛さは、「同性愛だから○○」という問題以前に、「絶対に叶わない恋」という至極シンプルなところに起因する。それに気付いているし今の関係は壊してはいけないのだけど、到底封じ込める大きさではないから、言わずにはいられない。つらい、、

 

もーちん…。

僕はもーちんに対して言葉にできない心の濁りを感じた。ただただもーちんが報われて欲しいと願うばかり。僕はラストの1ページ、あまりに辛すぎる展開の連続と、彼女の重すぎる言葉に、思わず泣いてしまった。しかももーちんは性愛に興味がない、というスタンスを見せられていただけに、そのモヤが晴れた先の「同性愛」という薄く勘付いていた正体が見えた途端、辛さが込み上げてきた。もーちん…

友達と恋人、という両側から迫り来る壁に潰されそうになるもーちん。菅原氏はもう、心と身体のそれらに潰されてしまった。誰が・何が2人を救うのか。

アニメ化するらしいけど、

やるなら遠慮なく。媚びることなく。ね。

 

5巻から少し加速した物語、6巻では真っ暗闇に突入してしまった。3,4巻の退屈で平和な流れからたとえ暗転したとしても、この闇へ転落する逆・高揚感は今年1番のもの。

 

ちなみに本作は少女漫画?

24歳男性ぼく、若干薄気味悪い読み方をしていると自覚してます。でも上記の感想は決して的外れではないだろうし、このレベルまでちゃんと深掘りできるほどこの物語はよく出来ています。もし単なる恋愛漫画として読んでしまっている人がいたら、ぜひ話の練度に気付いて欲しいなあ。よく知らんけど岡田麿里さんってすごいんやな。

 

ハアー、ため息漏れる。本当にいい漫画です。ストーリーばっかり語ってしまったけど、画力・表現力もぶっちぎりですからね。

 

好きな漫画筆頭。本当に。