ハイボール・ハイライツ

ハイボールを飲みながら、気になるコンテンツのハイライトを。

台湾バンドシーンと漫画『緑の歌』、創作物のもたらす原動力に関する所見

2021年の音楽まとめを書いてから、半年以上ぶりのブログ。。。

このブログイチオシ The Dinosaur’s Skin

最近の音楽シーンの中で、台湾発の音楽がとても勢いに乗っていて、日本音楽から輸入されたフォーマットが逆輸入のような形で日本国内でも熱を帯びてきている。懐かしさと新しさを感じる良作ばかりだ。

メロウでダウナーなものが流行っている印象で、個人的なタイプとマッチするかはまた別の話なのだけど、台湾音楽を聴くということ自体が価値ある体験のような気がしているので、ちょっと紹介。

それと、台湾・日本のカルチャーシーンの最前線を走る漫画『緑の歌』も読むことができたので、その感想も忘れないうちに書いておきたい。

 

台湾音楽のあれこれ

地理的に近いから日本の流行が隔たりなく台湾の人々にタイムリーに影響を与えているのだろうか。

日本では、デジタルで聴く即物的な音楽が商業的な成功を収めている一方で、対抗するサブカルチャーという観点的に、じっくり聴き込むフォークソングや昭和時代のゆったりとしたシティポップ音楽の再興が最近のトレンド。レコード再燃も、その影響の一端だろう。

台湾まで影響を及ぼすような日本の音楽シーンは、後者の「音楽好きのための音楽」だよなあ。まずいくつか紹介します。

恐竜的皮

まずはこちら。

「恐竜的皮」というバンド。

アップテンポな曲調ながら、ボーカルの歌い様やサビに至るまでのゆったりとした構成は、「はっぴいえんど」を彷彿とさせますね。なおかつ打ち込みのビートやシンセサイザーなどがアクセントとして効いていて、まさにフォークソング再興時代におけるルネッサンスとなっている。

あと歌詞もいい。

この「 Millions of Years Apart 」という曲、バンドのテーマとも合致しているのは言わずもがななのだけど、恐竜の時代から現代へ、という歌詞を、3拍子のゆったりとした曲に乗せているのがとても素敵。まさにひと昔前の音楽シーンの再興を表しているようでいいですよね。

9m88

再燃はバンドだけではない。こちらの9m88(ジョウエムバーバー)は竹内まりやの名曲シティポップをカバーする。彼女の領域としてはソウルらしいけど、数年前に爆流行りした日本のシティポップの流れを汲んで台湾ではその第一線として活躍している。日本のシティポップがルーツなのかは知らんけど。親和性があるのは間違いない。

これはソウル寄りの曲だけど、80年代の日本のシティポップのリズム感を感じざるを得ない。

Sunset Rollercoaster

次はこちら。「落日飛車(Sunset Rollercoaster)」。

もう上のMVを見てもらえれば、アナログ時代をいかにリスペクトしているか、わかると思います。日本では「BIG ROMANTIC RECORDS」や「HOLIDAY RECORDS」が彼らのアナログ盤を輸入販売していたりして、まさに日本のアナログ再興に台湾で追走しているようなバンドだ。

我是機車少女

めちゃくちゃかっこよくないですか???

男女ツインボーカルで、英語歌詞の男性ボーカルと中国語歌詞の女性ボーカル。音は懐かしさのあるシティポップと現代的でテクノロジカルな打ち込みのミックス。そういった対比を楽しめるルーズな曲調の中でびよ〜〜んって伸びるギターソロとロングトーンが最高にかっこいいし、一方で全体的にリズムはタイトで曲全体が引き締まっている。

 

以上最近よく聞いている台湾音楽の紹介でした。

これ以外にも、ポストロックやパンクロック、あとはヒップホップなんかも台湾のものはどれもクオリティが高く、普段聞くヒットチャートからは感じられないエキゾチシズムがとても新鮮で楽しい。

『緑の歌』という漫画について

台湾音楽について紹介しましたが、次は日本のカルチャーに影響を受けて生まれた漫画『緑の歌』についてちょっと話したい。

 

www.kadokawa.co.jp

はっぴいえんど」からはじまり「細野晴臣」に魅了された少女の物語。日本・台湾両方の音楽シーンが交錯しており、さらに時代を遡って昔の音楽に惹かれるその本質とは、みたいなところを恋愛とうまく絡めている、みたいな感じ。

 

作者の高妍先生は台湾出身で、実際に細野晴臣の音楽に影響を受けて、この漫画の執筆にあたったとのこと。日本で留学をして芸術を学んでいたらしく、海外の漫画作品とは思えないほど読みやすい。本編に触れるとなるとあまりにも多くのカルチャー知識が必要だったり、登場する音楽を漫画読みながら聴いたり、みたいなことになるのでその辺は省略します。が、細野晴臣を起源とする高妍先生の創作に対する姿勢が素晴らしかったので、ぜひあとがきまでじっくり読み込んでほしい。

 

この物語、「好きなものを好きでいること」がテーマで、それが恋愛だったり音楽だったりしても・・・(この先は本編にて)、みたいな結論に着地するのだけど、それに説得力を持たせるためには、物語として創作するその語り部たる作者のルーツそのものが重要なのだな、と考えさせられる。

創作活動において、強く衝撃を受ける作品への出会いを求めること、その感性の鮮度を保てるように追い続けること、そしてそのインプットを創作としてアウトプットすること、この3本柱がいい作品を生むためのセオリーなのだな、ということがよくわかった。

togetter.com

まったく出自不明の引用なのだけど、雑なインプットから生まれる創作がつまらないというのは、上記で是枝監督が感じている若者の退屈さともリンクするだろう。高妍先生のあとがきや、本編から感じられる日本文化への愛を見るに、本当に細野晴臣をはじめとする作品群を心から愛しているのだろうし、それが自分にどう影響を与え、どういう表現をすればアーティスティックな描写でも読者に伝わるか、みたいな自己研究の賜物がこの作品を生み出したのだろう。

 

「創作物を愛するということ」がテーマのこの作品が生み出された背景が語られているあとがき、そこから一番好きな一節を紹介します。

直撮りだし、載せていいのか?文字起こしだるいし、まあいいか。

『緑の歌』あとがきから

優れた作品は、優れたインプットと、それを愛する気持ちから。その心持ちで描かれた『緑の歌』という作品、良かったです。高妍先生は漫画で、上記で紹介したアーティストは音楽で、それぞれ日本に素晴らしいものを届けてくれている。日本の文化に影響されているから!と上からなことを言うつもりは全くなく、単純に異国の地で両国の文化が愛でられて、互いに影響を与えて良いものが作られようとしている、っていうことがシンプルにうれしいのです。

 

以上、台湾文化アチアチという記事でした。

BIG ROMANTIC RECORDSで貰ったクソデカポスターに載ってるたくさんの台湾バンド、そろそろちゃんと聴くか。