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2023年 映画まとめ - その1 下半期に観た新作

2023年下半期は新作58本を観た。うち3本くらいは上半期公開でした。旧作を含めると劇場で観たのが80本くらい?配信分も含めると150本くらい?年間通算だと250本くらいかな???そんな感じです。

さて、下半期に見た新作映画の感想をちょっとずつ載せます。50音順です。

ちなみに上半期の新作まとめはこちら:

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あまりにも長くなってしまいそうなので、作品のリンクは貼らないことにした。

 

1.    658km,陽子の旅

    菊地凛子の演技をまじまじと見たのは本作が初めてだったかもしれない。社会にうずもれて精彩を失った人間も、その復活劇も、上手だった。邦画はなんかヘンなSF映画にばかり出演しているイメージだったから、こういうミニマムなヒューマンドラマで本領を感じられてうれしい。物語の流れは所々おかしな点もあったけど、最後には目頭が熱くなるいい作品だったな。これを7月にみて今年の映画賞レースの女優賞間違いなしでしょう、と思ってたら12月「市子」の杉咲花に覆された。

2.    愛にイナズマ

    同時期に公開された「月」とは対照的な明るい石井裕也監督作品。松岡茉優には圧倒されっぱなしで、「勝手にふるえてろ」のような粗野な演技が似合う似合う。しおれた佐藤浩市に思わず驚くも、芯のある初老男性には最適なキャスティングだったな。一方でプロデューサーのキャラデザやチンピラ詐欺集団の会話など、石井監督が描写する「悪」があまりにもしっくりこないのが本当に気になる。総じていい作品だけど、もっと爆裂するような何かが欲しかった気もする。言い方が悪いが、お利口な作品。

3.    朝がくるとむなしくなる

同日公開の「女優は泣かない」のあらすじと、本作の唐田えりかが重なって気になっていた。特に見たくて見た作品ではなかったし、こういう邦画によくある全体的にダルい感じが続いた。ただ、即興か?と思わせるような無味無臭の会話が興味深かった。あまりにも「絶妙な距離感の女子たち」の会話のリアリティがすさまじく、「演出や脚色が無さすぎるのもなんだか恥ずかしいなあ」と思ったくらい。

4.    あしたの少女

    個人的に大満足している作品。何の気なしに見たので、後になってからじわじわと評価が上がってきている。とにかく、責任の所在が明らかにならず断罪されない結末にモヤモヤすると思いきや、この物語全体のプロットと「Next Sohee あしたの少女」というタイトルにふさわしい至極のラストが待っていた。孤立を許さないための対話と寄り添いの重要性を説いた大傑作。演出過多なシーンも見受けられたものの、間違いなく今年のベスト10に入る。

5.    アステロイド・シティ

    個人的にウェス・アンダーソン監督の作品にはハマったことが無かった。シンプルな物語をただ複雑にさせていて、疲労の割には物語から得られるカタルシスや登頂感みたいなものがないから。しかし本作、そもそも「アステロイド・シティ」という舞台が劇中劇だったこと、それを利用して時系列を欺いていたこと、その2つが作用して物語が深まっていたように思える。「演じること」という真のテーマを舞台裏パートで、しかもモノクロで進行させたのはかっこいい。とはいえ、全体的な理解度は60%くらいだと思う。

6.    市子

    ダルめの邦画を予想していたんだけど、想像以上に硬派で度々見入ってしまった。「さがす」「ある男」との関連性もあり、この辺のテーマだと邦画特有のアーティスティックな演出の入り込む余地がなく、好みの仕上がりになりがちなのかもしれない。その点「月」は演出過多でめちゃくちゃにダルかったわけだが。ちなみに杉咲花の演技は恐ろしいほどに魅力的。「忘れたければ忘れればええし、忘れたくないなら忘れなければええやん」の声色や表情が蠱惑的で、食い入るように演技を見た。とはいえ記憶に残るタイプの強烈な映画ではなかったかも。それくらいあっさりしているのがまた高評価でもあるのだが。

7.    イノセンツ

    今年ベスト級の一本。童夢は全く見ていないのだが、子供たちの心の機微を中心に、あくまでも超能力は味付け程度になっていた印象で、それが素晴らしかった。能力バトルに振り切っていたら完全に下品だったし、団地や自然といった大型の背景とちっぽけな子供の対比も分かりやすい。さらには団地の内外で変化する自分のポジションに耐え切れない子供たちの心の模様を細かく描いていて、最高傑作だ。

 

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8.    ヴァチカンのエクソシスト

   公開から数か月遅れて、元祖エクソシストとの2本立てで見た。想像以上にアツい話で、古き良き除霊っていうより「来る」みたいな能力バトルに近い感じ。劇場で見られてよかった~ あまり思い出せることもない、ファストフード的映画。個人的にマーベルの映画ってこういうイメージ。

9.    ヴォルテックス

  従来の手法をまろやかかつビターに使ってきて、オープニングとエンディングには思わずため息。二分割された画面構成の中を交差して行き来する会話劇は正直寝落ちした。鮮烈すぎる映像表現に圧倒されるかな、と思って身構えてたけど、ゆるやかな下り坂が続く非常にスローな映画で肩透かしを食らった気分。とはいえ、愛の定義を問う素敵な作品だとも思う。

10.    宇宙探索編集部

 予告やデザインに惹かれた中国作品。決して雑な作りではないし一貫しているものも発見できたのだけど、オカルトなのかヒューマンドラマなのか分からないのが痛かった。あと1歩何か足りない、とっても残念だけど愛すべき作品だった。

11.    王国(あるいはその家について)

 いや~~、すごかった。明らかに実験的な映画で芸術家的な観点から制作されたものなのだけど、一方アートに振り切れることなく、ちゃんと映画としてギリギリの体裁を保っていたような気がする。そのバランスが本当に絶妙だった。なんというか、自分で難解な解釈をきちんと工面できたモダンアートって、めちゃくちゃ気持ち良いじゃないですか。それと同じ感覚。カメ止めと似たようなメタ構成だから口コミバズりするかなって思ったが、さすがに初見殺しが過ぎる。

12.    オオカミの家(+骨)

  SNSで話題になっていたやつ。アニメーションやストップモーションといった、あらゆる表現を実践している作品。たしかに前衛的ではあるが、ちゃんと統率は取れていて面白かった。ストーリーの奥深さやホラーとしての不気味さは特段感じられず、ただその巧みな表現に見惚れるだけだったかも。その点、死体をもてあそぶ少女がテーマになっている同時上映の「骨」の方が見応えという点では勝ったかもしれない。申し訳ないが、「Beau is Afraid」の前哨戦という位置付け。

13.    終わらない週末

   急にツイッターで話題になったNetflix配信作品。これ、なぜ劇場公開しなかったんだろう。結構相性いいと思うんだけどな。内容としては特に目を張るものではなかったけど、手軽で雑に見ても楽しめる作品。尺としては長めだけど細かく章立てもされているので、本当に家で視聴されることを意識しているのかも。シャマランの設定と、ジョーダンピールの画や音、そしてHBOが製作したかのようなブラックコメディが合わさった感じ。イーサン・ホークが良すぎ。

14.    君たちはどう生きるか

  ジブリの様式美が全部詰まっていて面白かった。何より、めちゃくちゃヌルヌル動く画と、アフレコが上手な俳優陣に満足した。声優って要らないなあ、と持論(極論)を支えてくれて嬉しくなった作品。声優って究極、作品のクオリティアップにはあまり寄与しないよね。声優が下手だと気になるけど、声優がいくら上手でも、俳優として自然な演技ができるかどうかの壁を越えてこない。というか、俳優と区別する必要性を全く感じられないっていうか。吹替は今後の人生で自らの意志をもってみることはないだろうし、アニメもそこまで好きなものは多くないし、なんでもいいんですけどね。

15.    キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン

 なが・・くない!実尺200分、体感120分。ストレスなく200分の大作に沈み込む快感を味わえる。何より、ワシントンD.C.からの捜査員がドアをノックするシーン、あの直前で完全に気持ちが途切れそうになっていた。そしてあのノック・・ドアを開けたら・・ですよ。あれは本当にすごかったな。一瞬で目が覚めて身体を前傾姿勢に起こした。この作品が持つ質量を、真向からスクリーンで体感するという映画体験ができて良かった。

16.    キングダム エクソダス<脱出>

  映画ではないが一応劇場で観た新作ということで・・。ほとんど覚えてないんだけど、いつ姿を消してしまうか分からないトリアー監督の新作っていうだけでも見て良かったなあ。かなり大衆に寄り添った結末も好印象で、何より彼のコメディセンスに光るものを感じた。「ボス・オブ・イット・オール」をスクリーンで見逃したのが痛い。15時間のシリーズ一挙上映に参加したのでディテールはほぼ忘れたに等しい。どうやらものすごい体験をしたんだな、というすべてが煮詰まった後の濃い味の記憶しか残っていない。オカルトホラー×ブラックコメディの骨太ドラマシリーズとして、最高の幕引きだろう。

17.    首

 「アウトレイジ」は超えてこなかったんだけど、大満足ですね。あの加瀬亮を見られただけでも万々歳だ。あとこのレベルの規模の実地撮影に力を入れられる邦画はもう存在しないと思っているので、そういった意味でハリウッド的というか、邦画やるやん!という力強さを感じた。それと、全くコメディを想像していなくて、急に満員の劇場で笑い声が響いたとき「え?」とびっくりした。笑いどころが分からなかったというか、極限状態でおどける演出的な感じかと思っていた。それを瞬時に笑える北野武ファンに脱帽。そして「あ、笑っていい作品なんだ」と気が付いてから肩の力が抜けた。だからこそ加瀬亮の狂気がより作品を引き締めたんだと思う。メリハリすごかったよなあ。

18.    熊は、いない

 めちゃくちゃいい作品のはずなんだけど寝た。。時期が悪かった。しかも結構大事なパートで寝ていたっぽくて、かなり消化不良のまま終わってしまった。最悪。もう一度最初から鑑賞できるほどのエンタメ作品ではない。一番寝落ちしたらいけない作風だったよ。。。

19.    クライムズ・オブ・ザ・フューチャー

 クローネンバーグ特有のゲテモノを期待したら肩透かしを食らった。「そっか、パフォーマンスアートだもんな」で大方納得できてしまう程度の不気味さ。「ビデオドローム」や「ザ・ブルード」のような爆発力も、「裸のランチ」のようなトリップ感もなかったかな。個人的には合わない作品だった。

20.    グランツーリスモ

 今年のトップガン。人生には残らないタイプの、刹那的な作品。大スクリーンのIMAXで見たので、そういう方向の映画としてバチバチに面白かった。前傾姿勢になって食らいつくように観たと記憶している。ふつうに大満足だけど語ることが特にない・・

21.    CLOSE クロース

   「怪物」と比較してしまう。こっちはとにかく近い。怪物は観客を楽しませるためにサスペンス要素が盛り込まれた群像劇だったけれど、本作は少年のまなざしを直視しなければならず、「おもしろかった」とはとても簡単に思い浮かべられるものではない。心が痛んで軋んで、涙が溢れる。これ以降の今年の似たような作品には全く食指が動かなったくらい、誰にも邪魔されたくない大切な一本。なのに武蔵野館は字幕が見にくくて、ほんとうに劇場選びを間違えて後悔!(なんかクレームジジイみたいだ)

22.    ゴジラ-1.0

 今年のワースト候補ですね。ダメでした。ただ、万人からバッシングを受ける駄作ではなく、あまりにも自分自身の観点に刺さるものが何もなかったというのが理由。地上波のバラエティー番組が常にうすら寒い感覚。「うおおおおお!!!」って叫ぶと機関銃のヒット率が上がるの、めちゃくちゃおもろい。あと膝から上がすべて海面から出ているゴジラの浮力、どうなってんだよ。この作品を語るのであれば、とにかくいじるか、演出過多のくどさを批判するかしかない。まじで合わなくて気絶しそうになった。海外メディアでSuperhero Fatigue(スーパーヒーロー疲れ)という記事が公開されていたけど、本作のアメリカでの大ヒットが作品自体の高評価につながっていて、「いや、日本人からするとゴジラ-1.0はSuperhero Fatigueだから!」と言いたい気分。水のVFXはめちゃくちゃすごかった。

23.    最悪な子どもたち

 あらすじの「え、おもしろそう!」と、本編冒頭の「おお~いい感じ!」、それだけ。急に終わってしまった。でもテーマとか映像とかは良くて、本当に「え、終わるの?」と落胆する時間も与えられないまま急にはしごを外された気分。たしかに子供たちの演技は素晴らしかった。地域に根差した作品なのに何故不良の子らをピックアップして評判を貶めるようなことをするのか、という住民の問いも興味深い

24.    ザ・キラー

 デヴィッド・フィンチャーのファンとしてかなり期待した。けど、全体的にあっさりしていたなあ。彼の作品特有の、画的には静かなんだけど核心に迫るときの「ドキドキドキドキ・・・!!!」っていう鼓動の早まりを感じたかったんだけど、無かったな・・。The Smithsの劇中歌をふんだんに使用していて、そこが一番良かったかも。

25.  サンクスギビング

 「グリーン・インフェルノ」の監督新作。前作よりもかなりマイルドに見えた。そもそも未開の食人部族と、アメリカのシリアルキラーの話じゃあインパクトが違うしね。こういったスプラッター系の映画は今後配信で十分だな、と思った作品。

26.    サントメール ある被告

 黒人・母・移民という3要素にどれも寄り添えず、ずっと他人事のような傍聴をしていた感覚。でもそういう人に向けて最終弁論があり、あの長回しのカットはそのために練られたのかと思うと、裁判のおもしろさをちょっと感じた。

27.    シアター・キャンプ

まさかのフェイクドキュメンタリー。キレキレのブラックコメディが散らばっていて面白かったんだけど、いまいちそれが意図的なのかどうかも分からず、自分ひとりだけで楽しんでいる感じだったな・・。レベッカの交霊術おもしろすぎるでしょ。明るいミュージカルコメディっていう側面が押し出されていて、あまり皮肉に富んだユーモアのことを指摘しまくるのもシャニカマかな、と思って言わないようにしている。

28.    SISU 不死身の男

 めちゃくちゃ地味じゃなかった?不死身の理由が歴戦の経験値とか強運とかを差し置いて「だって不死身なんだもん」ぐらい簡素化されていて笑った。せめてもうちょっと根性論でも良かったでしょ!それはともかく、公開前に見たから宣伝のされ方と実態の差が大きかった。決して悪いと言っているわけではなく、想像以上にハードボイルドで静かな作品だったということ。マッドマックスやRRRなんてとんでもない。熱量が違うよ。

29.    シック・オブ・マイセルフ

 こちらも試写で鑑賞。北欧ビジュアルが洗練されていることもあり、結構話題になるかな~と期待していたんだけど、そこまでだったな・・。個人的には結構好きというか、このくらい誇張してやっとエンタメになるというか。SNS世代への雑な問題提起とかを一切無くして、最悪な主人公の自業自得奇譚に徹してくれていたのが高評価。そしてこの作品の本領は今後公開予定のA24「Dream Scenario」の監督作ということだ。あと色々調べて見つけたんだけど、主演女優の過去作「Ninjababy」も見たいんだよな。日本で見るすべはないが・・

30.    ショーイング・アップ

  「ファースト・カウ」と同日公開のケリー・ライカート作品。常連のミシェル・ウィリアムズが主演ということもあって、かなり好みだった。ホン・チャウもいい役者だよね。スタンダード画角からシネスコになり、さらに現代のそのものを描いていたり、今までの作風が一変した気がしている。でも相変わらず余白がたっぷりで、ミシェル・ウィリアムズの寡黙な名演技との相性は抜群だったと思う。

31.    女優は泣かない

 伊藤万理華やハマケンといった信頼するキャストが出ている「手ごろな邦画」として観た。どこをとってもちょうど良いクオリティで、大作であればあるほど邦画はきな臭いし、これくらいの規模感が良いよな~と実感した作品。一方で伊藤万理華の演技は相変わらず頭一つずば抜けていて、「サマーフィルムにのって」の延長線上にあるようなキャラもあいまって最高だった。伊藤万理華、ずっと邦画の最前線にいてほしいな~。あ、蓮佛美沙子もはじめてみたけど、想像以上に良かった。

32.    ストロベリー・マンション

 日本未公開のレア作品上映特集のうちの一本。クローネンバーグや「ゼイリブ」が構築した世界観に近い。ビジュアルが特に現代風にアップデートされている様子もなく、チープなプロダクションデザインがまさに数十年前のクローネンバーグのそれだった。当時は革新的なアイデアだったんだろうと思うが、本作においてはなんだろう、学生の卒業制作に見えてしまう瞬間も多々あったな。もちろん、それも含めて楽しく観られたけどね。特に顔面隕石がすごくて、「あ、こういう感じでいいんだ」ってあっけにとられた。

33.    正欲

  完全に磯村勇人目当てで見に行った作品だったのだけど、思いのほか良かった。マイナス1億点とプラス1億3点を天秤にかけて総評★3つ、というイメージ。めちゃくちゃ考えたし、大嫌いと大好きが混在する珍しい作品。

 

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34.    ソウルに帰る

  予告編でダンスしている作品ってなんか見たくなっちゃうんだよねえ。しかもフランス映画と勘違いしていて、韓国へのロードムービーっていうあらすじにも惹かれたのだ。蓋を開けてみれば粗野なキャラクタ造形に振り回され、あまりすっきりしなかった印象。今後注目したいと思わせるような光る原石も見つからず、ただただ粗削りの切り出した岩、って感じだ。

35.    Saltburn(ソルトバーン)

 今年の8/31に突如?トレーラーが公開され、愛するバリー・コーガンが主演ということもあってめちゃくちゃ楽しみにしていた作品。まさかこんなに早く観られるとは思ってもみなかった。「プロミシング・ヤング・ウーマン」の監督作なのだけど、そちらには全くハマらなかったという不安もあった。社会的メッセージが薄めだったのが本作の良かった点かも。バリー・コーガンの怪演にはただただ心を奪われて、説明できる代物ではない。バリー・コーガンが良すぎてその他の要素の気になる点も全部どうでもよくなった。

36.   宝くじの不時着 1等当選が飛んでいきました

 上映前から界隈でめちゃくちゃ面白いと話題になっていた作品。年末年始にぴったりのドタバタコメディで、今年一番笑ったかもしれない。劇場内もみんな笑っていてよかった。

37.    ダンサー・イン Paris

  下半期のダークホース。完全に「TAR ター」と対比をなす復活の物語で、フランスの「今」を切り取って描く爽やかでリズミカルな名作だ。ネガティブな要素を極力排したコメディ作品であると同時に、全編を通して芯に力強さがしっかりと通っている。この作品をル・シネマで見たらバレエ系と思われる家族連れやそっち方面の芸術に明るそうな客層で埋まっており、文化や芸術の交差を映画館で感じられてなんだか嬉しくなった。

38.    月

  ここまで説明する必要はないと思うのと同時に、そうでもしないと伝わった気になれない人たちもいて、難儀だなあと。石井監督のテイストとは合致している気がする。ヒトラーの来歴を急に諳んじる無名職員、カレンダーの赤丸で囲まれた大事な日付(しかもその月、その日しか予定がない。)、その日に近づくにつれ過ぎた日をバツで消す、施設の職務スペースが昼夜問わず真っ暗、など、演出がコテコテすぎて合わなかった。良し悪しはともかく、苦手な作品。磯村勇人はよかった。

39.    TALK TO ME

 試写で鑑賞。よくあるホラーかと思いきや、人間関係におけるトラウマが怪異を呼び起こすトリガーになるという設定上、家族関係や友人関係の方にもフォーカスしないといけない。その点、登場人物である10代たちの描き方も秀逸で、さすがYoutuberが監督しただけある。当然クラシックなホラー要素も含まれていて見応えばっちりなんだけど、惜しむらくはもっとショッキングな画もあってよかったな、というところ。死者との交霊っていうテーマだと、どうしてもそのすべての霊に残虐性を持たせる必要性はないので、ややセンチメンタルになりがち。

40.    ナポレオン

 合わなかったなあ。。巨匠リドリー・スコットと主演ホアキン・フェニックスとくればそれは期待したけど、題材が合わなかったのかな。天才的な発想で戦局をひっくりかえす軍師としての一面も、悪魔的と呼ばれるような為政者の一面も、どちらも中途半端だった気がするんですよね。まあ、そもそもリドリー・スコット作品でまともに見たことあるのって、「ブレードランナー」「ハンニバル」くらいなんですけどね、ワハハ!

41.    バービー

 今年は色々な人たちとこの作品の話をしたが、いまいち自分の感想が芯を食っていないというか、深読みしすぎている気がした。バービーが婦人科を受診しに出向くラストだけが真髄で、それ以外は最新のジェンダー論を皮肉するような内容だと思うんだけどなあ。力説するほど好みの作品というわけではなく、いつの間にかどうでもよくなってしまった。単純にコメディシーンのセンスが合わなかった。なんかフジテレビの特番って感じ。

 

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42.    PERFECT DAYS

 浅学ながらヴェンダース作品はお初でした。良かったです。平山の過去には極力触れられず、今の生きざまにフィーチャーしていたのがとてもよかったな。最後のあのカットで平山が見せた苦渋の表情、あれだけで彼が開き直りや無関心がゆえのあの生活なのではない、ということを教えてくれた。彼は彼なりに人間を愛そうとしたり、社会の求めるレールに乗っかって生きようと思ったりした瞬間があったはずだ、そういうことを想像させる大事なエンディングだったな。でも、広告代理店が創り出したムーブメントの一環なんだな・・というヤダみが垣間見える瞬間も多々あって、特に柄本時生が演じる「ザ・現代の若者」像はかなり鼻についた。

43.    Pearl パール

 「X エックス」がそこまでハマらなかったため、ホラー描写が減った本作への評価はさらに厳しい。何よりミア・ゴスを手放しで絶賛できず、モヤモヤする。そんなに面白くなかったよなあ。1作目に比べて規模が大きくなったね以外に特に語ることもない。

44.    ファースト・カウ

 いや~、ケリー・ライカート作品の中でも飛びぬけて余白たっぷりだった。個人的にはそこまで好みではなかったかな。友情の切り抜きが映っているだけで、それ自体に美しいものが感じられるのは間違いないけど、物語としての密度だったり「観た感」だったりは薄いよなあ。西部開拓時代のマチズモから脱却した男性2人の友情、というテーマなんだろうけれど、それを十分に想像させるパーツは揃っていない気がした。中心と余白のギリギリのバランスがケリー・ライカートの醍醐味だけど、今回は悪い方に働いてしまったかも。

45.    FALL / フォール(公開自体は上半期)

  公開からかなり遅れて配信で鑑賞。一発屋ホラーかと思いきや高所を映像で体験する感覚をなめていた。普通に怖かったな。設定で出落ちすることもなくちゃんと結末に向けたストーリーの流れが考えられていて、この手の映画にしては「しっかり観た」感を得られた。続編にはさほど期待していないけど、この作品単発で完結してくれていることもあり、ファストフード的映画としてそこそこの高評価。

46.    福田村事件

  フィクションとしての盛り上がりに欠ける、って誰かが言っていたけど、個人的にはドキュメンタリーやノンフィクションの方向に振り切ってほしかった。瑛大の頭に斧が振り下ろされた直後に鳴るBGMが陽気で気になった。たしかに言われてみれば中途半端な気もするが、役者の演技はみな素晴らしかった気がする。なんというか、高級な水を飲んで「味しないな・・」と思う感覚に似ている。作品それ自体は良いものなんだと思うが、無味。

47.    ふたりのマエストロ

  これもダークホースに近い。90分にも満たない尺、かつラストの展開も読める作品だったが、クラシック音楽が題材でも卑近に感じられる良いエンタメだった。ル・シネマで観たという体験も良かったなあ。なんとなく音の響きが良質に感じられる映画館だと思う。あのラストは完全に読めた、というかキービジュアルからも読み取れるが、壮観で美しい演奏に心を奪われ、きっちりパンフレットまで買って満足した。

48.    ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー

 こちらも配信で鑑賞。前作より爆発力が無くなった気がする。主人公二人の掛け合いや生活感はどこまでも広がっていけるテーマだしどんな形でも楽しめる気がするので、もっとアクションシーンを見せてほしいなと思う。伊澤彩織の格闘技ベースのアクションシーンをもっと見たい・・

49.    僕はきみたちを憎まないことにした

  さっぱりしていて良い作品。ただ、「テロ」がもたらす最大限の憎悪それ自体をなかったことにする必要はない気がして、対峙しているのはテロリズムで、それを踏まえた赦しの姿勢が大事なんだけどなあ、と思った。ちょっと淡泊すぎるというか、内省的すぎるというか。もっと社会全体を燃え上がらせる巨大な憎しみの存在にも触れてほしかった。

50.    ほつれる

 今年ベスト5に入るかも・・超好き。とにかくセリフと演技が自然すぎる。即興とかアドリブが多いのかなって思ってたけど、どうやらその真逆で、言いよどみ方や言葉に詰まる様子もすべて脚本に書かれているらしい。何よりその演出に対応できる役者陣の力量にも感動した。いや~、まじで凄かった。ヨルゴス・ランティモスの静的かつ美的カメラワークと、荻上直子が織りなす自然な会話劇が合わさった感じで、さらに80分程度という尺に収まっているため、濃密だった。

51.    マルセル 靴をはいた小さな貝(公開自体は上半期)

 全然期待していなかった作品。めちゃくちゃ泣いた。今年観た映画の中で一番の涙の量だったかも。ただのストップモーションかと思いきや、ちゃんとリアルな人間が物語を動かす様子もあり、そのパートに恣意的な不自然さも感じられなくて良かった。下半期トップ10どころか年間ベスト10に入ってもおかしくないかなあ。

52.    ミッションインポッシブル デッドレコニングPart1

  試写会で鑑賞。尺が長い上に全2部構成という作品で、そのボリュームに飽きないよう随所にコメディシーンが挟まっていたのが新鮮だった。一方でアクションやスパイシーンのキレも健在だったから、総じてかなり満足感は高い。そもそも目くじらを立てて粗さがしをするようなシリーズではないと思ってるから、気になる点は特に見当たらなかったなあ。ファンは気になる点もあったんだろうけど。トム・クルーズが変に若作りをしておらず、等身大の60歳を演じていたのがとてもよかった。

53.    ミュータントタートルズ ミュータント・パニック!

 今年のベスト10に入ります!!最高だったよ、本当に・・。今年の「スパイダーバース」と肩を並べる、表現の可能性に限界まで肉迫した大傑作。色々なポップカルチャーへのリスペクトと愛が散りばめられているのに、ニューヨークのドープな音楽とアングラなビジュアルが終始一貫していて、迷子にならなかった。過去作を一切知らない状態で鑑賞できたのも良かったなあ。「スパイダーバース」は次作を見ないと判断ができなさすぎるから、同じく続編が示唆されていても本作の方が一応高評価ということにしている。あと「スパイダーバース」はMCUや実写の他シリーズまで介入してきており、そろそろキャパを超えそうな予感がしている。本作は100%中の100%を目指している感じなのが良い。

54.    メドゥーサ デラックス

  A24配給作品なのでもう少し話題になるかなって思ってたけど、そこまでヒットしなかった印象。これは試写で観た。そして寝た・・。色々と惜しい作品だとおもう。ビジュアルや撮影の仕方はエッジーで素敵だった。エンディングのダンスも個人的には好き。どことなくギャスパー・ノエを彷彿とさせる。

55.    ヨーロッパ新世紀

  「熊は、いない」と同様めちゃくちゃ良質な作品。なんだけど、ちょっと寝落ちしてしまった。。。本当に最悪だ。でもさほど影響がないシーンで寝落ちしていたらしく、全体的な理解度も高くて満足した。今年公開された映画の中でもかなり良い方だと思う。パンフレットも読み込んだ。複雑で難解な事情が絡んでいるが、ヨーロッパの地政学村八分サスペンスが混ざり合った良作だ。

56.    理想郷

 これも村八分サスペンス。歴史的な背景事情をそこまで感じさせず、都市部と地方の文化的・倫理的格差をつぶさに描いた作品だった。後半パートで急に夫婦愛の物語に転換して面食らったけど、それはそれで筋が通っていたというか、後日談として成立していた気がする。そしてクライマックスの露悪的な結末は、非常に後味が悪くて、良かった。

57.    別れる決心(公開自体は上半期)

 編集やカメラワークがユニークで面白かったのは覚えている。中身は覚えてないや。本当に好きでも嫌いでもなかったんだと思う。

58.    私がやりました

 試写で鑑賞。フェミニズムについて評価されているのですが、そんなんだったっけ?かなり記憶があいまいなんだけども、冤罪事件の犯人に疑われるもあえて否定せず、女優として・弁護士として名を上げるためその裁判を利用する、というプロットですよね。そしてその裁判に勝利するための弁論としてフェミニズムを用いていた気がするのだけど、それってかなり皮肉的で詭弁として描かれていたと思ったんですが。「女性は問答無用で守られるべきだ」という論調を逆手に取ったように見えて、それが現代の価値観にも通じて皮肉で面白い、というか。でもストレートに女性の権利を真向から問いただした作品!という評価をされている気がして、そんな正義感ある話だったっけ?と詳細を思い出せない記憶にモヤモヤしている。それはさておき、軽妙なテンポが心地よくて、クラシックとモダンが両立した素敵な作品だった。

・・・

はい。長くてすみません。

今年、自分ってこんなに映画が好きだったんだ、という自覚から始まり、仕事柄見れば見るほどその知識も活きてきて、毎週毎週狂ったように映画館に通っていました。それでも生涯でたかだか500~600本くらいしかみていないのだけど、そのほぼ半分をこの一年で観た、というのはなかなか達成感がある。

過去の有名作や監督についてはまだまだ知らない作品がたくさんあるから、そういうのを2024年のリバイバル上映で意識的に観ていきたいな。

「その2」では、劇場で見た旧作と、ベスト10の話をします。